2015年1月8日木曜日

人工呼吸器~換気モード~

1.    実験の原理
1-1.人工呼吸器の原理
    人工呼吸器の原理は大きく分けて2つの方式がある。その方式は、胸郭外陰圧式と気道内陽圧式である
(1)  胸郭外陰圧式(NETPVnegative extra thoracic pressure ventilation)
胸郭外陰圧式を図1に示す。


1.胸郭外陰圧式(参考文献2より引用)

密閉された空間の中を、吸気相では陰圧にすることで、胸壁や腹壁が引っ張り拡げられることにより、もともと陰圧である胸腔内圧がさらに陰圧になる。その結果、肺胞が膨らみ、空気が気道を通して肺胞内に流入してくる。
呼気相では、密閉された空間の中を大気圧に戻すと、胸壁や腹壁は弾性力の弛緩により縮み、肺胞内のガスは気道を通して外に呼出される。
以上のように、胸郭外陰圧式の人工呼吸は、呼吸筋の運動をその装置で代行させる生理的な換気方式である。
以前は、鉄の肺や鎧型人工呼吸器などとして使われていたが、現在は使われていない。

(2)  気道内陽圧式(PAPVpositive airway pressure ventilation)
気道内陽圧式は、人工呼吸器から気道内に直接陽圧ガスを間欠的に送り込み、肺胞を直接拡げて換気を行う方法である。
気道内陽圧式を図2に示す。

2.気道内陽圧式(参考文献2より引用)

吸気相では呼気弁が閉じることで呼吸回路内は閉鎖状態となり、そこに設定量または設定圧のガスが人工呼吸器から患者側に送気されると、送気されたガスは呼吸回路の吸気側から気管内チューブを経由して患者の気道内に全て供給される。
呼気相では、人工呼吸器の送気ガスが停止して同時に呼気弁が開くと呼吸回路内は大気中に解放状態となり、その結果膨張していた肺は肺胸郭の弛緩と弾性により縮み、気道内のガスは呼吸回路の呼気側より呼気弁を経由して大気中に呼出される。
このようにガスの流れは一方向で、気道内から一度呼出されたガスを再び吸い込まない非再呼吸方式となっている。現在では、この方式が人工呼吸器の主流となっている。

   2-2.人工呼吸器の構成
     人工呼吸器の構成を図3に示す。


    
3.人工呼吸器の構成(参考文献3より引用)

3に示した各構成要素について説明していく。
(1)  駆動原
人工呼吸器本体を駆動させる駆動原として、電気および酸素、圧縮空気が使用される。電源には、本体の移動や停電時でも動作可能なバッテリを搭載している機種もある。酸素・圧縮空気は配管端末器のアウトレットより供給され、接続にはピン方式やシュレーダ方式が採用されている。酸素は、高圧ガスボンベ、圧縮空気はエアーコンプレッサより供給する場合もある。また、圧縮空気には水分や塵埃が混入していることがあるため、防湿、除塵装置が必要となる。

(2)  酸素ブレンダ
酸素と圧縮空気を混合して、希望の酸素濃度を作り出すための調節器である。

(3)  酸素濃度計
酸素ブレンダにおいて設定された酸素濃度が適正な濃度になっているかをチェックするために使用される。酸素センサには、一般的に作用電極における酸素の化学反応で生じた電流を酸素濃度として測定するガルバニックセル方式が採用されている。

(4)  呼吸回路
()吸気弁
         呼気弁は人工呼吸器本体内にあり、人工呼吸器吸気相の間のみ吸気弁は開いて、設定されたガスが呼吸回路側に送気され、呼気相ではガスの送気が停止して吸気弁は閉じる。このようにガスは一方向のみに流れ、患者呼気ガスの再呼吸が起こらないようにしている。

()患者呼吸回路
         人工呼吸器から設定されたガスを患者の気道内まで導いたり、患者からの呼気ガス、呼気弁を経由して大気中に呼出するまで導くための管であり、管は変形または狭窄・閉塞しないように蛇腹状の形状をしている。材質は塩化ビニル、シリコーンまたはその化合物などである。

()加温加湿器
         人工呼吸器本体から送り出されるガスは乾燥しており、そのまま患者の気道内に送気すると気道内に送気すると気道内が乾燥して多くの合併症の原因となる。したがって、送気ガスは70%以上の加湿を行うことがひつようである。その加湿を行うものが加温加湿器であり呼吸回路内の吸気側に取り付けられる。

加温加湿には以下の種類がある。
    Pass-over
送気したガスと加温した水の水面とを接続させて湿度を加える。

    Bubble diffusion
ヒータで加温した水の水面下にある小孔の空いた板に送気したガスを導き、ガスを細かな泡状にすると、ガスと水との接触でガスは水蒸気で飽和される。

    Wick
Pass-over型を改良して、特殊濾紙が温水を吸い上げて蒸発面積を大きくしている。

    人工鼻
患者の呼気ガス中に含まれる温度と湿度を一時的に捕獲保持して、患者の吸気時にこの両者を還元させるもので、気管内チューブとYピースとの間に装着する。加温加湿器、ネブライザの併用は、メッシュの目詰まりの可能性があるため禁止である。

以上に示した加温加湿器の種類を図4に示す。

4.加温加湿器の基本的構造の種類(参考文献1より引用)


       ()Yピース
         呼吸回路と気管内チューブとが接続されている部分で、ここで吸気側と呼気側のガスの流れが分かる。この部分に気道内圧測定用チューブや加湿用温度センサなどが取り付けられることが多い。

       ()ウォータートラップ
         呼吸回路内に貯留した結露水などが患者の気道内または人工呼吸器本体内に流入しないよう、結露水を一時的に捕獲しておく容器で、呼吸回路の一番低い位置に設置する。

       ()バクテリアフィルタ
         常在菌の通過を防ぐためのフィルタで、吸気側に取り付ければ患者への常在菌の侵入を防ぎ、呼気側に取り付ければ大気中への常在菌の放散を防ぐ。
         バクテリアフィルタを装着する場合は、加温加湿器の後ろや呼気側に装着すると、水分を含むことにより気流抵抗が上昇することがあるので注意が必要である。

              ()呼気弁
         吸気相にて呼気弁が閉じると呼吸回路内が密閉され、人工呼吸器本体から送気されるガスは全て患者の気道内に送り込まれて肺を膨張させ、また、呼気相では呼気弁が開いて呼吸回路内は大気中に解放となり、肺内にあったガスは肺胸郭の弾性により大気中に呼出される。

         この呼気弁を閉開する機構は以下の種類がある。
    バルーン型
バルーン型呼気弁を図5に示す。

5.バルーン型呼気弁(参考文献3より引用)


呼気弁用チューブを通して人工呼吸器本体から陽圧ガスを間欠的にバルーンに送気すると、バルーンが拡張(呼吸回路内を閉鎖する吸気相)および収縮(呼吸回路内を大気中に解放する呼気相)を繰り返す。

    ダイアフラム型
ダイアフラム型呼気弁を図6に示す。

6.ダイアフラム型呼気弁(参考文献3より引用)

       ()PEEP
         呼気相で呼気弁が開くことにより、呼吸回路内のガスは大気中に呼出され、呼吸回路内の圧力は大気圧と同等の平圧になるが、PEEP弁はこの呼吸回路内の圧力を平圧にしないで呼気相の終末に希望するPEEP分の陽圧を呼吸回路内に残すよう呼吸側を半閉鎖状態にする弁で、これにより肺は軽度膨張のまま呼気相が終了する。通常は呼気弁と兼用することが多い。

       ()気道内圧計
         最高気道内圧、呼気終末気道内圧、患者の吸気圧や気道抵抗、肺胸郭コンプライアンスなど気道内圧の変化を知るための監視装置で、人工呼吸器には必ず装備されている。

       ()換気量計
         人工呼吸器が設定量のガスを送り、また患者が設定に応じた換気を行っているかを測定するための換気量測定は重要である。実際に問題となるのは患者に届いたガス量であり、これは患者の呼気のガス量を測定することにより分かる。

       ()ネブライザ
         人工呼吸器において、ネブライザは薬液などを霧状にして吸入ガスと一緒に吸入させ、気道粘膜の機能を正常に保つためのエアロゾル療法に用いられることが多い。

  1-3.人工呼吸器の換気方式
(1)  吸気相におけるガスの送気方法
()flow generator
   吸気相の間、ガス流量に従って気道内にガスを送り込む方法である。

以下のパターンがある。
    定常流型
ガスの流し方に変化をもたせないで、一定流量のガスを吸気相のあいだ気道内に流し込む方法である。

    サインカーブ型
吸気相初期よりガス流量を次第に増加させて、吸気相の中間あたりでガス流量を最大とし、その後、吸気相の終末にかけてガス流量を減少させてゼロにしていく方法である。

    漸増型
吸気相初期から吸気相末期にかけてガス流量を増加していく方法である。

    漸減型
吸気相初期にガス流量を多くし、吸気相終末に向けてガス流量を減少していく方法である。

     ()pressure generator
       呼気相において気道内に一定の圧力をかけながらガスを送気する方法である。

(2)  送気装置
記述された酸素濃度のガスを患者の気道内に送気したり停止させたり、すなわち吸気と呼気を繰り返すために吸気相から呼気相に、また呼気相から吸気相に切り換えるための装置である。きっかけとなる因子がなければならない。

その因子となる方式を以下に示す。
()量規定方式
  一回換気量または分時換気量を設定し、この設定された換気量のガスの送気が終了すると吸気相から呼気相に転換する方式である。また、呼気相から吸気相への転換は設定呼吸回数による換気周期(時間)や患者の吸気努力があったときにそれを認識して変換される。
  吸気相では、呼気弁が閉じて設定された換気量のガスが気道内に送気され、設定量のガスの送気が終了すると呼気相に移り、呼気弁が開いて気道内のガスは大気中に呼出される。

()圧規定方式
  吸気相終末の吸気圧を設定し、気道内圧がその設定値圧に達すると吸気相から呼気相に転換する方式である。呼気相から吸気相へは、設定呼吸回数による換気周期や患者の吸気努力があったときにそれを認識して転換される。
  呼気相では、呼気弁が閉じて設定された吸気圧値に到達するまでガスが気道内送気され、設定吸気圧値に圧力が到達すると送気ガスが停止して呼気相に移り、呼気弁が開いて気道内のガスは大気圧中に呼出される。
  
()タイムサイクリング方式
  呼気相から吸気相への転換、および吸気相から呼気相への転換を、吸気相、呼気相の時間の時間をタイマーなどにより一義的に決めて行う方法である。換気回数を設定する人工呼吸器はこの方式を兼ね備えて動作する。この方式は小児用人工呼吸器に多く採用されている。

()患者サイクリング方式
患者が自発的に吸気努力を行ったとき、その吸気努力により生じた陰圧または流量などをセンサで感知させ、これを吸気相開始の引き金とする方法である。
トリガ機構とは、患者の自発呼吸の吸気の開始を認識し、自発呼吸と人工呼吸器から吸気のタイミングを同調させる機能である。

その方法には、圧トリガとフロートリガの2つがある。
()圧トリガ方式
  患者が自発的に吸気努力を行うと、呼吸回路内が陰圧となり、その陰圧を圧トランスデューサにて感知させ吸気相に切り替えるものである。

()フロートリガ方式
  呼吸回路に一定のガスを流しておき、入口と出口でそのガス流量をフロートランスデューサにて検出する。患者に吸気努力がなければ入口出口のガス流量は同等であり、患者が吸気努力を行えば吸い込んだガス流量分に相当する差がフロートランスデューサの入口出口に生じるため、その流量の差を感知させて吸気相に切り替える流量検出方式である。
  吸気相から呼気相への転換は量規定方式または圧規定方式に基づき行われ、換気回数や呼気時間については患者の自発呼吸の吸気努力の状況により一任される。
  このように、患者の自発呼吸の吸気努力により起こる気道内圧のわずかな陰圧および流量を感知して吸気相が開始される方式をトリガ機構という。

(3)  吸気装置における規定方式
人工呼吸器で吸気相において患者にガスを送気する吸気相の方法には以下に示す。
()量規定方式(VCVvolume control ventilation)
         一回または分時換気量を設定して換気を行う方法で、気道内に入る換気量は必ず確保されるという最大の利点をもっているが、最大気道内圧がどこまで上昇するかが予見できない欠点をもつ。
        特に、肺胸郭コンプライアンンスの低下時には気道内圧が高くなる現象は顕著であり、それによる気胸や縦隔気腫といった圧損傷や健常肺への過膨張などの危険性を含んでいる。

      ()圧規定方式(PCVpressure control ventilation)
        吸気圧値と吸気時間を設定して喚起を行う方法である。抹消気道抵抗や肺胸郭コンプライアンスが変化すると、換気量も変動するという欠点があるが、吸気圧値の設定により肺胸郭コンプライアンス低下時でも最高気道陽圧が設定された吸気圧値よりも上昇することはないので、肺への圧損傷や健常者への過膨張の危険性は避けられる。

VCVPCVの気道内圧の比較を図7に示す。

7.VCVPCVの比較(参考文献3より引用)

VCVPCVの特長所・短所を表1にまとめる。

1.VCVPCVの長所・短所(参考文献3より引用)

VCV
PCV
長所
一回換気量は確保される。
設定が直観的である。
設定圧以上に気道内圧が上昇しない。
不均等換気が少ない。
呼吸回路内のガス漏れや膨張に優位である。
短所
最高気道内圧が変化する。
圧外傷の危険性がある。
不均等換気が多い。
一回換気量が変化する。
設定が煩雑である。

  2-3.人工呼吸器の換気モード
    換気モードの分類を表2に示す。

    表2.換気モードの分類(参考文献3より引用)
調節換気
補助換気
酸素化
特殊な換気
IPPV
SIMV(IMV)
PEEP
HFV
CPPV
PSV(biPAP)
EIP
DLV
IRV
CPAP(BIPAPAPRV)
MMV(EMMV)



(1)  調節換気法(CMVcontinuous mandatory ventilation)
  調節換気法は、換気量または換気回数を設定して換気を行うものである。
  
各換気モードを以下に示す。
    間欠的陽圧換気(IPPVintermittent positive pressure ventilation)
換気量または吸気圧と換気回数をあらかじめ設定して、設定された換気量または吸気圧まで陽圧ガスを送気し、その設定値に達すると呼気弁が開いて呼気相となり、気道内のガスは肺胸郭自身の弾性収縮力により大気中に呼出される。この周期が設定された換気回数に従って繰り返される。
その時の気道内圧の変化を図8に示す。


図8.IPPVの気道内圧(参考文献3より引用)

自発呼吸のない患者に調節呼吸として用いられたり、PCVにて薬液をエアロゾルにして気道内に投与するエアロゾル療法や手術前後の呼吸訓練、肺理学療法などにも用いられる。

    持続的陽圧換気(CPPVcontinuous positive pressure ventilation)
CPPVの気道内圧を図9に示す。

図9.CPPVの気道内圧(参考文献3より引用)

換気モードはIPPVと同様であるが、呼気相でIPPVのように気道内を大気中に解放して気道内圧を平圧にしないで、希望する残圧を気道内に残し、肺胞を少し膨張ぎみにして呼気相を終了するIPPV+PEEPの換気モードである。

    呼気終末陽圧(PEEPpositive end-expiratory pressure)
PEEPは酸素化能の改善には不可欠な方法であり、呼気終末時に希望する陽圧を気道内に残して肺を少し膨張ぎみにした状態で呼気相を終了する方法である。
PEEPは、肺胞が完全に虚脱するのを防止し、機能的残気量を増加させるため肺内シャント率は減少し、肺コンプライアンスも上昇することにより低酸素血症が是正され酸素化が改善される。
似た言葉にauto-PEEPという言葉があり、これは特にPEEPを設定しなくても調節換気の呼気相において呼気は生理的な肺胸郭の収縮弾性により受動的に行われるので、人工呼吸器の呼気時間が患者にとって短かった場合、患者の肺胞内に呼気残気がまだ残っている状態で次の吸気相が開始されると、吐き出されなかった肺胞内の呼気残気がPEEPとして存在してしまうことをいう。
auto-PEEPの気道内圧を図10に示す。

図10.auto-PEEPの気道内圧(参考文献3より引用)

この状態が続くと肺内容量が少しずつ増加して肺胞内圧が徐々に上昇していく現象が起こる。特に、閉塞性換気障害をもった気道内圧の高い患者に発生しやすい。

    吸気呼気比逆転換気(IRVinverse ratio ventilation)
一般に、吸気相と呼気相の時間の比は吸気相の方が長く12などとしているが、その比を11以上に逆転させて吸気の流速を遅くして吸気時間を長くとり、呼気時間を短くする方法で、吸気流速がおそいため気道内圧を低くおさえることができる。通常はIE=41までとしている。
IRVの気道内圧を図11に示す。

図11.IRVの気道内圧(参考文献3より引用)

この換気モードでは、吸気相に時間をかけることによりコンプライアンスの低下した肺胞は押し拡げられるが、吸気時間が短いため吸気相中送気されたガス量が呼気時間内に肺胞から呼出されにくくなり、次第に肺容量が増加して、呼気終末の気道内圧も上昇するauto-PEEP現象となりやすいが、虚脱肺になりにくく、この増加した肺容量が酸素化能を改善する。
VCVPCVを比較した場合は、吸気パターンによる吸気相の立ち上がりが早いPCVの方が、平均気道内圧を高くとれるため酸化能の改善には有効である。

    吸気終末休止(EIPend-inspiratory pause/plateau)
吸気相の終末に送気ガスが停止しても、すぐに呼気相に移らず、呼気弁を閉じたままの状態で短時間待ち、肺胞が膨張した状態をその時間のあいだ保ったのち呼気相に移る方法である。
EIPの気道内圧を図12に示す。

図12.EIPの気道内圧(参考文献3より引用)

吸気相の終末に、ある一定の気道内圧を一定時間かけると肺胞内ガスの再分配が起こり、不均等換気の是正が期待できる。
PEEPと同様の効果を吸気相でも行おうとするものであり、補助換気法でも使用可能である。

(2)  補助換気法(PTVpatient triggered ventilation)
補助換気法は、患者の自発呼吸の下において、換気の補助を行う方法で以下の3つのパターンが考えられる。
    患者の自発呼吸の吸気努力により発生する陰圧または流量の変化を認識させるトリガ機構を用いて患者の吸気を認識し、それに同調して設定換気量または設定吸気圧に従いガスが送られる。
トリガ機構について図12に示す。


図13.トリガ機構

このとき、患者自身が欲した換気量または吸気圧は無視され、設定された
換気量または吸気圧に従いガスが送気される。
換気モードとして、補助/調節呼吸(A/Cassist/control ventilation)PSVなどが相当する。

    患者自身が自由に換気を行える環境下において、設定された換気量または吸気圧と換気回数に従って間欠的に強制換気が行われる方法である。
換気モードとしてSIMVなどがある。

    強制換気は一切行わないで、患者自身が自由に換気を行える環境下である。
換気モードとしてCAPなどがある。

()同期型間欠的強制換気(SIMVsynchronized intermittent mandatory ventilation)
        患者に自発呼吸をさせながら、一定周期ごとに開始される強制換気にも患者
の吸気の開始に同調させて換気を行うモードである。
トリガ機構を用いて、患者の吸気の開始と強制換気とのタイミングをトリガ
ウィンドウと呼ばれる時間枠で見ながら、患者の吸気の開始と強制換気とを
一致させて行う方法であり、ファイティングのも少なく人工呼吸器からの離
脱時に用いられる。
SIMVの気道内圧を図14に示す。

図14.SIMVの気道内圧(参考文献3より引用)

強制換気には量規定方式や圧規定方式が用いられる。

     ()圧支持換気(PSVpressure support ventilation)
                  患者の自発呼吸の吸気時に同期させて、陽圧をかける方法である。

       PSVの気道内圧を図15に示す。

図15.PSVの気道内圧(参考文献3より引用)

患者の自発呼吸の吸気努力を,トリガ機構を用いて患者吸気の初期に同期して、設定された吸気圧値に達するまでガスを気道内に急速に送り込む方法であり、補助呼吸の同調性に優れる。また、患者は楽に吸気を行うことができるため、吸気時の呼吸仕事量を軽減させ、ファイティングも少なく人工呼吸器の離脱時に用いられる。
PSVは吸気圧値の設定により換気されているため、患者の気道や肺胸郭コンプライアンスに変化が起こると、換気量が変動して一定の換気量の維持が困難となる。このような場合は、吸気圧の設定圧を変更することにより対応できるが、換気量が変動するたびに設定値を人為的に変更するのは困難であり、この対応を人工呼吸器で行わせる機能をもった機種がある。

その機種を以下に示す。
    量支持換気(VSVvolume support ventilation)
吸気終末の吸気圧が設定値まで上昇した時点で換気量に変動があると、その換気量の不足または過分の変動に応じて前の換気量が維持されるよう、自動的に設定圧が調節される。患者の呼気量を監視しながら患者の一呼吸ごとの吸気圧値を調節する。

    換気量補償型PSV(VAPSvolume assured pressure support)
吸気圧が設定値に達した時点で換気量が減少している場合、吸気を終了させないで設定した流速に従い吸気を接続して不足分の換気量を得る方法である。ただし、患者が吸気の終了を決定する吸気終了認識閾値の利点はなくなる。


()biPAP(bi-level positive airway pressure)
患者の自発呼吸下においてPEEPをかけた状態でPSVにて動作させるPSV+PEPの換気モードであり、NPPVに使用される。

*非侵襲的陽圧換気(NPPVnoninvasive positive pressure ventilation)
            気管挿管を行わずマスクを用いて換気を行うため、会話や食事の摂取が可能で感染が少ないなどの欠点がある。使用される換気モードはbiPAPであり、とくに吸気相の設定陽圧をIPAP(inspiratory positive airway pressure )、呼気相の設定陽圧をEPAP(expiratory positive airway pressure)といい、IPAPEPAPの圧差をPSVの動作にて換気量を得る。その他に、吸気立ち上がり時間と場合によっては換気回数を設定する。このNPPVはガス漏れが存在しても人工呼吸が正常に動作することが望まれ、専用の人工呼吸器が使用される。NPPVとは逆の陽圧式人工呼吸で侵襲的方法であるTPPV(tracheostomy positive pressure ventilation)もある。
           NPPVの機構を図16に示す。

16.NPPVの機構(参考文献3より引用)

()持続的気道内陽圧(CPAPcontinuous positive airway pressure)
強制換気は行わないで、患者の自発呼吸下において、PEEPをかける方法である。
CPAPの気道内圧を図17に示す。

図17.CPAPの気道内圧(参考文献3より引用)

気道内に一定のPEEPがかかっている状態において、定常流のガスやリザーバ―バッグにためたガスを患者自身が吸い込む。
この方法は、気道内圧の変動や圧損傷、循環抑制が少なく呼吸仕事量を軽減するため、人工呼吸器からの離脱時や慢性閉塞性肺疾患、新生児呼吸窮迫症候群などの呼吸管理に用いられる。

     ()二相性気道内陽圧(BIPAPbiphasic positive airway pressure)
患者の自発呼吸下において、CPAP様式のPEEPを周期的に低いPEEPと高いPEEPを一定短時間繰り返すことのように、患者自身の自発呼吸の換気量の他に、PEEPの圧変化による機能的残気量として稼ごうとするものである。
BIPAPの気道内圧を図18に示す。

18.BIPAPの気道内圧(参考文献3より引用)

CPAP中の患者で二酸化炭素血症を伴う場合に使用され、離脱時には高圧相のPEEPを下げるか低圧相の時間を延長する。

()気道圧開放換気(APRVairway pressure release ventilation)
    患者の自発呼吸下においてCPAP様式のPEEPを周期的に高いPEEPから低いPEEP11.5秒間開放して、また元の高いPEEPに戻し、自発呼吸の換気量の他にPEEPの圧変化による機能的残気量の変化分を換気量として稼ごうとする換気方式である。

  APRVの気道内圧を図19に示す。

19.APRVの気道内圧(参考文献3より引用)

 1-4.新生児・乳児用の人工呼吸療法
         通常、新生児や乳児の人工呼吸療法には少ない換気量、少ない吸気流量、多い換気回数が制御できる専用の人工呼吸器が使用される。

(1)  高頻度振動換気(HFOVhigh frequency oscillation)
生理的な呼吸回数を著しく越えた換気回数で行う人工換気法を高頻度換気(HFVhigh frequency ventilation)といい、駆動原や一回換気量の違いによって分けられる。

HFVの分類と特徴を表3に示す。

3.HFVの分類と特徴(参考文献3より引用)
分類
換気回数[/]
換気量[mL/kg]
高頻度陽圧換気(HFPPVhigh frequency positive pressure ventilation)
60150
34(致死量以上)
高頻度ジェット換気(HFJVhigh frequency jet ventilation)
60600
24
 高頻度振動換気(HFOVhigh frequency oscillation)
6003600
12(致死量以下)

高頻度換気のうち、現在広く臨床で応用されているのは高頻度振動換気で、一回換気量より少ないのが特徴である。また、気胸や慢性肺障害などの肺損傷発生の危険性が少ない換気法である。

(2)  nasal CPAP
高濃度酸素による障害を防止するために、持続的に40%以上の吸入酸素が必要な場合に施行される。これは、新生児が鼻呼吸であるために、鼻孔に陽圧をかけることで呼気終末においても気道内圧を陽圧に保ち、呼気相での肺胞虚脱を防止することにより機能的残気量を増やし、肺内シャントを減少させ、低酸素血症を改善する方法である。nasal CPAPの利点は、気管内挿管を必要としないこと、気管チューブの気道抵抗がなく呼吸仕事量を減らせること、挿管に伴う気道感染症を回避することができるなどである。

 1-5.気管吸引
   人工呼吸器装着者は、健康時に行えている喀痰喀出が行えない。また、生体にとって異物である気管チューブを挿入していることにより、通常よりも痰量が増加する。そのため、人工呼吸器装着中の気道浄化は、気道の開放性を維持し、換気量を維持するために重要なケアである。気管吸引の手順は、省略する。

 1-6.麻酔器
  麻酔器は、呼吸管を患者に接続して本体より麻酔ガスを酸素とともに肺へ送り、患者から排出された呼気ガスを二酸化炭素吸収装置により吸収したうえで再循環させている。循環方式には、閉鎖循環方式、半閉鎖循環方式があり、おもに後者が使用される。半閉鎖循環方式では、呼気ガスの一部を循環させ、残りを余剰ガスとして呼吸回路外に排出している。よって、この排出された分に見合うだけの新鮮なガスが本体より供給されることとなる。

 1-7.麻酔器の基本構造
麻酔器の基本構造は、ガス供給回路部と呼吸回路部に大別される。
麻酔器の基本構造を図20に示す。

図20.麻酔器の基本構造(参考文献3より引用)

(1)  ガス供給部
医療ガス配管設備または高圧ガス容器を取り入れる。その後、ガスは流量計により各々流量を調整され、気化器を通って呼吸回路部へと流れる。また、大量の酸素を瞬時に呼吸回路に供給するために、流量計や気化器を通らず直接呼吸回路に流れ込む配管が設けられている。これを酸素フラッシュという。

      ()圧力計
        一般に気体の圧力測定には、弾性受圧素子を使用した弾性圧力計が使用される。弾性受圧素子は、測定される圧力の影響のもとで弾性的変形を受け、その変形が伝達部によって目盛盤の前の指針の変位に変えられる目的で使われる。

      ()流量計
       麻酔器に使用されるロータメータは面積流量計である。原理的には絞り流量計とよく似ているが、絞り流量計の場合は、流体の流れている管の中に固定した直径の絞りを置き、流れによって絞りの前後にできる流体の圧力差を測定して、その圧力差の平方根から流量を知るようになっている。それに対し面積流量計では、絞りの前後のできる圧差を流量が変化しても常に一定値になるように、絞りの面積を変えられるようにしたものである。
ロータメータの構造は、テーパのある管を立て、その中に円形断面をもつ浮子を入れ、流体を下から上に流れるようにすると、流体は浮子と管壁の間にできたリング状の絞りを通って流れることになる。浮子の外径は一定で、管にはテーパがあるから、浮子の止まる位置での絞りの面積は高さに比例する。そこで浮子の高さ目盛が流量を示すことになる。
ロータメータの構造を図21に示す。

図21.ロータメータの構造(参考文献3より引用)

()気化器
 揮発性の吸入麻酔薬を気化させる装置である。代表的な気化器として、灯芯型気化器があげられる。これは、綿または金属の灯芯を麻酔薬の中に垂らし、毛細血管現象で揮発性麻酔薬を吸い上げ気化器を通るガスとの接触面積を大きくして、気化効率を上げるようにつくられた気化器である。1836℃の温度変化に対して、気化器内の温度が自動補正されるようになっている。この温度自動補正は、熱膨張率の異なった2枚の金属板が気化器内を通るガスの通路の口径を変化させるようになっている。

(2)  呼吸回路
呼吸回路は、呼気ガスの一部を循環、残りを余剰ガスとしてAPL弁から呼吸回路外に排出している。よって、この排出されたガスに見合うだけの新鮮なガスを、本体より供給する必要がある。

呼吸回路の構成を図22に示す。

図22.呼吸回路の構成(参考文献3より引用)

()呼吸管
  ガスの吸気・呼気に用いられる管であり、水分が一部分に貯留しないように、また閉鎖しにくいように蛇の腹状になっている。そのため、蛇管とも呼ばれる。当初は導電性の黒いゴムでできていたが、次第に非導電性で軽く、滅菌や消毒に耐え再使用できるもの、また、単回使用のものも用いられるようになった。

()Yピース
  呼吸回路内の吸気側と呼気側の2本の管を接続するY状のコネクタであり、この先端にL状のアダプタを介して気管チューブやマスクを接続する。

()吸気・呼気弁
  呼吸回路内は、吸気も呼気も一方向で行われる。吸気弁は、吸気時に開き患者側へ新鮮ガスを供給し、吸気時には閉じてガスの逆流を防ぐ。
  吸気弁は、呼気時に開き患者側からのガスを二酸化炭素吸収装置側へ送り、吸気時には閉じる。両弁ともナイフエッジ状の管の上に弁シートが置かれ、動作が確認できるように透明カバーで覆われている。弁シートは円形をしており、材質をステンレス、ガラスファイバ、セラミックスなどがある。とくに呼気弁は呼気ガスが水分を多く含んでおり、弁の動きを妨げ閉塞することもあるため留意する必要がある。

()APL
  麻酔法として半閉鎖回路を用いるため、この弁を調整して呼吸回路を循環するガスの一部分を排出する一方向である。構造は、スプリングにより弁を押さえる力を加減して排出口の大きさを変化させるものと、すりあわせにより排出口の大きさを変化させるタイプに大別される。

()安全弁
  呼吸回路内の圧力が異常に上がった時の安全対策として、一定以上のガス圧になった場合に弁が開き、呼吸回路内のガスを排出する。APL弁と安全弁が組み合わされているものもある。

()呼吸バッグ
  バッグの容量は0.55.0L程度までのサイズがあり、導電性のゴムまたはプラスチック製である。バッグを手で押すことによりガスを患者へ送り込む。また、自発呼吸時の吸気のリザーバとして使用される。

()回路内圧計
  呼吸回路内の圧力を監視するためのものである。回路内圧力は麻酔器本体の配管内の圧力に比して低いので、低圧を測定するため、空ごう型圧力計が使用される。                                                                                 

()二酸化炭素吸収装置
  呼気ガス中に含まれる二酸化炭素を吸収し、呼気ガスを再吸収するための装置である。吸収材(ソーダライム)を容器(キャニスタ)に入れて、呼吸回路内に装着する。キャニスタは2段重ねになっているものが多い。
  キャニスタに吸収剤を入れる際、キャニスタ全体に均一に充填しないと吸収剤が粗な部分にガスが多く流れて二酸化炭素の吸収が不十分となる現象が起こる。また、均一に入れても、ガスは気流の抵抗の小さいところを流れる。この対策として、キャニスタの流入・流出口には、気流が偏らないようにバッフル板を装着してある。
  キャニスタ内に充填されるソーダライムは、水酸化ナトリウムと水酸化カルシウムを約120の比率で混ぜ、これに二酸化ケイ素を加えて形成したものである。

*参考文献
     1.    臨床工学技士 標準テキスト 2版:小野哲章、峰島三千男、堀川宗之、渡辺敏、金原出版株式会社、p.269~p285.2012
     2.    MEの基礎知識と安全管理学 改訂第5版:日本生体医工学会ME技術教育委員会、南江堂、p.039~p330.2011
     3.    臨床工学講座 生体機能代行装置学 呼吸療法装置:竹澤真吾、出渕靖志、医歯薬出版株式会社、p.123~p.1732014


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